フィンランドのこと_トゥルクの教会のこと
” 村のおじいさんがこう話してくれました。
「いつかは死んでしまうけれど、その時この教会から旅立てると思えるだけで
死ぬことすら幸せなんだよ」”
とある本でこの一文を読んだ時、びっくりして、そんなすばらしい教会ならば
ぜひ見てみたいと思いました。
今日はそんな教会のこと。
首都ヘルシンキから特急電車で2時間。
フィンランド第二の都市であるTurku(トゥルク)という街があります。
あまり知られていないけれど西暦1200年くらいから
1819年にヘルシンキが首都になるまでの約600年、
フィンランドの首都として栄えた街です。
ヘルシンキをフィンランドの東端、ロシアに近い方と考えると
トゥルクは反対の西の方。
冒頭の教会は、ここトゥルクにある"復活礼拝堂"のこと。
トゥルク共同墓地の中にある教会です。
祭壇方向から振り返るとこんな感じ。
天井が丸みを帯びているのがよくわかります。
墓地の中にあるという場所柄 、たくさんの悲しみを受け止めてきた教会なのでしょう。
そんなみんなの気持ちを丸い空間が優しく包んでくれます。
祭壇に光を届けるステンドガラスはピンクや黄色の淡い色合いが美しく、
もう一つ、大きな特徴は左右非対称。
教会といえば 真ん中に通路があることが多いですが、
この教会は椅子がグッと左に寄っています。
そうすることで座る人の目に入ってくるのは、右手に広がる大きな窓。
低く抑えられた窓からは、緑が見えます。
亡くなった人がこれから過ごすであろう、
穏やかな自然の世界を表しているそう。
窓の桟を出来るだけ細く、目立たなくすることで窓の存在感を消して
その世界がすぐそばにあるように感じさせてくれます。
他にも、細かなところにたくさんの秘密が隠されています。
例えば、ドアや壁についたスピーカーは丸い形。
傷ついた繊細な心を刺激しないように
また、天井から吊られた照明には傘の装飾がついていて、
上に行くほど小さくなるそれは ひらひらと天国へ旅立って行く魂を表しているよう。
いい建築というのは、見た目の派手さや奇抜さを表すのではなく
こうした細部に至るまで、全てにきちんと建築家の意思がある建築。
そうして意図されたひとつひとつが集まって
空間を特別なものにしてくれる。
そこにきた人が建築のことを気にしていなくても
なんとなく伝わるもの。
それがいい建築なのかなと思います。
実は、戦争で親友を無くした建築家が、悲しみを形にしたとも言われるこの復活礼拝堂。
ナショナル・ロマンティシズムという民族のアイデンティティを表現する芸術において
フィンランド最高峰と言われています。
日本で墓地、というと薄暗くてちょっと怖いイメージですが
墓地を出る頃には 冒頭のおじいさんのコメントが少しだけわかる気がしました。
■トゥルク 復活礼拝堂
Ylösnousemuskappeli( ウュロョスノウセムスカッペリ)
住所:Hautausmaantie, 21, 20720 Turku
TEL:+358 40 341 7530
マーケット広場から市バス9,12番で10分「Uusi hautausmaa」下車すぐ
* * *
ここトゥルクでは昨年テロがありました。
川が静かに流れ、両岸では人々が芝生に座っておしゃべりしている
そんな穏やかで平和な街でした。
起きてしまったことは二度と元には戻せませんが
素晴らしい環境によって悲しみを乗り越えてくれることを、
願ってやみません。
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